memo
えろげんこうがすすまないの罠
こんな少女マンガちっくなのが夏に出るよ!きっと!!
気になる方はつづきからどうぞー。原稿上がったらまた別サンプル載せに来るよ!!
(お前さぁ)
(…む?)
それはここでフランシスと逢う様になってから何度目の事だったろうか。いつもの様にベンチに座り、読書に耽るルートヴィッヒの隣で不意にフランシスがこう言った。
「もっと、笑えば?」
「…は?」
唐突な彼の提言に、ルートヴィッヒは視線を本から外さずに、俄かに眉根だけを寄せる。
「いきなり笑えと言われても、それは無理だな」
「何でよ?」
「今俺が読んでいるのは推理物、それも今最高の山場だ。そんな場面をへらへらと笑いながら読む奴が何処に居る―」
フランシスは、そんなルートヴィッヒの真面目に過ぎる返答にがっくりと肩を落とすと、
「だーかーらー!そう言う事を俺は言ってるんじゃないっての!」
そう喚く様に言いながらルートヴィッヒの両頬を手で摘み、うにうにといじくり回す。その行為に大いに心臓を跳ね上げたルートヴィッヒは、膝に乗せていた本を思わず地面に取り落としつつも抵抗する。
「ちょ、おい、離せっ!何のつもりだ!?」
「はい、表情筋の運動ー!アンドゥ、トロワー! って」
「…今すぐにその手を離さなければ、今度はお前の頬が痛みに引き攣る事になるぞ…」
「痛!痛い!いだだだだだ!!ごめんねごめんなさいルーイ!お兄さんが悪かった!悪かったから俺のほっぺから手離してぇぇぇ!」
結局ルートヴィッヒの抵抗に完敗する形になったフランシスは、ぐすん、と鼻を鳴らしながら赤くなってしまった両頬を手で擦りながら、言う。
「でも本当、お前、もっと笑えばいいのに…」
しかしこれだけやっても何故か諦める様子を見せないフランシスからルートヴィッヒはぷい、と顔を背けると、
「まだ言うか…、そもそも面白くも無いのに笑えるものか。それに、俺がそんなに明け透けに笑っていたところで、気色が悪いだけだろう…」
それに、ルートヴィッヒ自身、笑う事がそれ程得意ではなかった。笑いだけではなく、感情自体を上手く外に出す事が苦手と言っても良かった。それが元で、時折人に敬遠されているであろう事も、彼自身知っていた。そんな自分に懐いてくるフェリシアーノの様な変わった奴も居るには居たのだが。
「…うん、それでもお前はもっと笑うべきだよルーイ」
「し、しつこいなお前も…。だからさっきから言っているだろう、俺―」
フランシスの執拗さに痺れを切らしたルートヴィッヒは再びその視線を彼に振り向ける。すると、
「………ふ ぁッ …!?」
言葉を次ごうとしたルートヴィッヒの唇を、フランシスの唇が軽く塞いだ。時間にすれば一秒にも満たない、ただ触れただけのものだったが、ルートヴィッヒにとってはそれが数秒、数分にも感じた。それだけ、激しく動転したのだ。
彼の思わぬ行動にその身を石の様に強張らせていたルートヴィッヒに、しかしフランシスは言った。真っ直ぐにルートヴィッヒを見つめ、微笑みながら。
「だってお前、きれいだもん。こんなにきれいなのに、笑わないなんて勿体無いよ」
「お前、何を言 って…」
「お前は自分で気付いてないだけだよ。…ルーイ」
そう言って、フランシスは手を伸ばし、ルートヴィッヒの掛けていた眼鏡をそっと外すと、再び唇を求めて来た。硬直した身体をふるふると震わせながらルートヴィッヒはそんなフランシスを呆然と見つめていたが、
「イだああああぁぁぁ!ベアクローやめて、やめてぇぇぇ!暴力反対!つぶれる!お兄さんの顔つぶれちゃうからぁぁあ!」
「わっ、悪ふざけはここまでにして貰おうか!」
はっと我に返った瞬間、フランシスの再接近をルートヴィッヒは渾身の力を込めて顔面を押さえる事で凌いだのだった。
「ふざけてなんかないっての!ほんとにきれいだと思ったから言っただけなのにぃ!」
「い、言うだけに留まってないだろう気色悪い真似はやめて貰おう!全くお前は男でも女でも見境がないのか!?」
「俺はほんとにきれいなものにしかきれいだなんて言わないよ!?」
「だっ、だからそっちの話じゃないっ!きっ、ききキスだなんて…、男同士がするものじゃないだろう!?」
「えー、別にいいじゃない。きれいなものにはどうしてもキスしたくなっちゃうのよお兄さん。これ、愛(おれ)の国の常識よ?」
「お、俺の国にはそんな常識は一切ないッ!」
***
見上げていた茜色であった筈の空は、いつしか紫の掛かった夜の空に変わろうとしていた。その空の端に小さく一番星が輝き始めている。あれからどれだけの時間が経ったのか。時の経つのも忘れ、長い物思いに耽ってしまった自分に、ルートヴィッヒは思わず苦笑した。
さて、いい加減に帰ろう。あまり遅くなっては、また兄さんが不機嫌になる―。そう思い、ルートヴィッヒはベンチを立つと、最後にふと、フランシスを思った。
(明日も、逢えるだろうか。お前に)
「――― っ ?」
その瞬間、込み上げる胸の痛み。そして、それと同時に、まるで涙腺が壊れた様に突然溢れる涙に、ルートヴィッヒは焦燥する。
ただ、あいつを頭の片隅で思った。それだけなのに。この気持ちは、一体何なのだ。
よろりと再びベンチに座り込むと、ルートヴィッヒは僅かに震える手で己の唇を覆った。そうでもしなければ、今の心のその内を叫び出してしまいそうであったから。
「…痛い… っ」
(お前さぁ、もっと笑えば?)
「…どうして」
(だってお前、きれいだもん。きれいなのに、笑わないなんて勿体無いよ)
「こんな、気持 ち…ッ」
(お前は自分で気付いてないだけだよ。…ルーイ)
「フラン シス …っ」
(ルート、自分で気付いてなかった?)
フェリシアーノのあの時の言葉が、今、改めてルートヴィッヒの胸に刺さる。
気付いていないどころか、信じられなかった。
けれど、今、完全に理解をした。否、理解せざるを得なかった。この、無意味に流れる涙の理由も、この、締め付けられる様な胸の痛みの理由も、全部。
ただ何気なく過ごしていた時間。
ただ何気なく共にいた日々。
ただ、それだけだったはずなのに。
悪ふざけ。確かに自分はあいつにそう言った。
しかしどうやらその悪ふざけに本気になってしまったのは、こちらの様だ。
(気色悪い真似はやめて貰おう!全くお前は男でも女でも見境がないのか!?)
「… 見境が無いのは、俺の方 …ッ」
そんな独り言の続きを次ごうとする度に、しかし涙が溢れて止まらない。